最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)2118号 判決 1949年6月13日
主文
原判決を破毀する。
被告人河野一郎に對し、議院における證人の宣誓及び證言等に関する法律違反被告事件に關する部分の公訴を棄却する。
同被告人を禁錮四月に處する。
被告人三浦寅之助同磯崎貞序に對する被告事件の公訴を棄却する。
理由
被告人河野一郎辯護人三宅正太郎、同村瀬直養、同小野清一郎、被告人三浦寅之助辯護人久保田国松、被告人磯崎貞序辯護人小野清一郎、同宮内厳夫提出の各上告趣意書は、末尾添付のとおりであって、之に對する當裁判所の判斷は次のとおりである。
三宅辯護人の第一點について。
所論、昭和二三年當裁判所規則第九號(同年當裁判所規則第三五號を以って一部改正以前の當初規定)の規定中、上告審のみに適用ある第四條の規定を除けば、すべて從來裁判所又は裁判長の裁量に委せられた事項につき、たゞその裁量の範圍に制限を加えた規定をなしたに過ぎないものであって、如何なる見地からするも違憲なぞというべきものではない。從って之を適用して裁判をした原判決に違法がありとは考えられない。所論は、第四條の第一回口頭辯論期日の指定及び上告趣意書の提出期日に關する規定を違憲なりとして上告理由としているが、上告理由は、原審判決の法令違反を理由とすべきものであるから、前記第四條の違憲を主張する論旨は、上告適法の理由として認めることはできない。尚前示第四條は違憲と認むべきものではないが、ここではその理由を詳述する必要がないから之を省略する。
以上の如くであるから、第九號規則による手續に從った原判決は憲法第三一條の規定に反するとの所論は到底採用し難い。論旨は理由がない。
三宅辯護人の第二點、村瀬辯護人の第一點について。
所論、昭和二二年勅令第一號(以下公職追放令と稱す)第一五條第一六條第一項第七號の各規定事項が、ポツダム宣言第六項の趣旨を貫徹するための必要的事項であることは、所論も之を肯定するところである。されば、焦點は昭和二二年勅令第七七號により改正追加せられた右第一五條第一六條第一項第七號の規定が昭和二〇年勅令第五四二號(以下ポツダム勅令と稱す)所定の「連合国最高司令官ノ爲ス要求ニ係ル事項」たりや否やの一點に存する。當裁判所の職權調査の結果に依れば、「昭和二二年二月末頃連合国最高司令部民政局から政府に對し、同年四月に行われる各種選擧に際し、昭和二二年一月四日附連合国総司令部発日本政府宛覺書該當者の選擧運動等を禁止する規定を作るよう、口頭上の要求があったこと。政府は右に基ずき草案を作成し、民政局に提出したところ、選擧運動に關連ある政治運動のみでは狹いから、すべての政治活動を禁止するようにとの要求があったこと。その結果追加各條項のとおり制定すべしとの指示があったこと。」の事実を確認することができる。(記録編綴、昭和二四年三月二八日附當裁判所宛法務総裁回答文書参照)。然らば、所論各追加規定は、ポツダム勅令所定の連合国最高司令官の要求に係る事項であることは寔に明瞭であるから、論旨は理由がない。
村瀬辯護人の第二點について。
公職追放令第一五條に所謂「政治上の活動」とは、原則として政府、地方公共團體、政黨その他の政治團體又は公職に在る者の政治上の主義、綱領、施策又は活動の企畫、決定に参與し、之を推進し、支持し若しくは之に反對し、或は公職の候補者を推薦し支持し若しくは之に反對し、或は日本国と諸外国との關係に關し論議すること等によって、現実の政治に影響を與えると認められるような行動をすることを言うものと解するを相當とすることは、當裁判所の他の案件において、尚詳細に亙って之を判示するところである(昭和二三年(れ)第一八六二號昭和二四年六月一三日大法廷判決)。今、被告人河野一郎の所爲を考察すれば、原判決の認定した被告人の原判示第一の所爲は、右公職の候補者を支持することによって、現実の政治に影響を與えると認められる行動であることは、亦寔に明らかと謂わねばならぬ。然らば、原判決が、被告人の所爲を以って、公職追放令第一五條の政治上の活動に該當するものとし、同條第一項第一六條第一項第七號に問擬したのは相當である。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)
以上の理由に依り、刑訴施行法第二條に則り、各被告人に對する議院證人法違反被告事件の部分については、舊刑訴法第四四七條第四五五條第三六四條第六號に從い公訴を棄却すべく、被告人河野一郎に對する爾餘の被告事件については、原判決はその事件の罪と右議院證人法違反事件の罪とを、併合罪として處斷したのであるから、舊刑訴法第四四七條に從い原判決全部を破毀し、同第四四八條に從い更に判決すべきものである。仍って原判決の確定した原判示第一の事実を法律に照せば、被告人の所爲は公職追放令第一五條第一項に該當し、同令第一六條第一項第七號に違反するものであるから、同條第一項本文の所定刑中禁錮刑を選擇し、被告人河野一郎を禁錮四月に處するを相當とする。
仍って主文のとおり判決する。
此判決は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)